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カラオ編集長のひとりごと。

【05衆院選】「郵便物は増えている」けど…

2005年08月20日

郵政民営化の根拠のひとつとなっている「eメールの普及で郵便事業は先細り」に対して、ギモンの声があがっています。

具体的には、東谷暁氏などが「アメリカでは近年においても取扱郵便物数が増えている」実態を指摘したことがよく取り上げられています。

しかし、小切手文化によって郵便利用頻度が多くなりがちなアメリカで取扱郵便物数が増えているから、日本でも今後取扱郵便物数が増える!なんてことは、どう考えても成立しないのではないでしょうか。

そこで今回は、日本の状況がどうなのか、Q&A形式でデータをもとに踏まえていきたいと思います。

【Q】 アメリカでは取扱郵便数が増えているけど、日本ではどうなの?
【A】 日本でも、全体で見れば「広義の郵便物」数は(おそらく)増えています。

まず、「日本郵政公社統計データ」から過去3年間の通常郵便(ハガキや封書など、狭義の郵便物)総数を見ると、

【通常郵便の総数】
2002年7月〜2003年6月 221.87億通
2003年7月〜2004年6月 210.59億通
2004年7月〜2005年6月 199.57億通

と、毎年10億通ほど確実に減少しています。

しかし、この数字には、パンフレットやカタログ、冊子などを安価に配送できる「冊子小包」は含まれていません。

【「通常郵便+冊子小包」の総数】
2002年7月〜2003年6月 224.65億通 (2.78億通)
2003年7月〜2004年6月 217.29億通 (6.70億通)
2004年7月〜2005年6月 214.00億通 (14.43億通)
*カッコ内は冊子小包数。

「冊子小包」を加えても、やはり減少傾向にあるようです。ただ、「冊子小包」に類似したサービスは民間配送会社も提供しています。数字が見つかった、ヤマト運輸が提供している「メール便」をあわせると…

【「通常郵便+冊子小包」+「メール便」の総数】
2002年7月〜2003年6月 231.26億通 (9.39億通)
2003年7月〜2004年6月 228.24億通 (17.85億通)
2004年7月〜2005年6月 229.12億通 (29.56億通)
*カッコ内は冊子小包とメール便の合計数。

このように、下げ止まる傾向にあるようです。今回はヤマト運輸の「メール便」のみの数値を加えましたが、

(1) 佐川急便の「飛脚メール便」や日本通運「日通メール便」など各社が参入・サービス強化をしている
(2) 「冊子小包」「メール便」ともに順調に取扱数が増えている

ことなどを踏まえると、おそらく国内の郵便物数は増えていると言えるのではないでしょうか。

【Q】 郵便物数が増えてるなら、民営化しなくても問題ないのでは?
【A】 数は増えても、儲かっているかは別問題です。

「郵便物数が増えているんだったら、今後衰退するワケではないし、民営化しなくても問題ないのでは」と考えるのは至極当然ですが、そうではないのが悲しいところ。

伸び盛りの「冊子小包」は、大幅なディスカウント制度を設けています。例えば500g以内の郵便物を年間100万個以上送った場合1通70円、同800万個以上なら1通55円(いずれも県内)で出すことが可能です。

郵政公社はディスクロージャー誌「郵便2004」で「郵便業務の収益は、小包郵便物数が増加する一方、通常郵便物数の減少等により、対前年度比639億円減の1兆9,766億円となりました。」と述べています。

ここでの「小包郵便物」には、当然「冊子小包」も(名前に小包と付くとおり)含まれています。つまり、

(1) 各種データから、郵便物数は確かに増えている
(2) しかし、狭義の郵便物(ハガキ・封書など)は減少し、安価な冊子小包が増えている
(3) 小包が増えたが、通常郵便物が減少したことで、郵政公社の収益は悪化した

のが現実なのです。

「利益が出せる郵便物」が増えたかどうかが重要で、単純に郵便物数が伸びたかどうかは、それほど重要ではないのです。

竹中郵政民営化担当大臣は「eメールが普及すれば郵便事業は先細り」という趣旨の発言をしていますが、これは「郵便物数は伸びるかもしれないが、安価なサービスに流れてどんどん儲かりにくくなる」ということだと推測されます。

【Q】 民間配送会社は儲かりやすいところだけをイイトコドリしてるのでは?
【A】 既に「全国一律80円でA4サイズの封書を送付できる」サービスが提供されています。

民間配送会社が提供するメール便サービスに対してはよく「大口顧客に強力な割引制度を設けるなど、効率的に儲かるところからだけ受注してイイトコドリをしているだけだ」という弱者切り捨て論による批判をよく目にします。

しかし、ヤマト運輸では、個人が1通からでも気軽に出せる「メール便」サービスを既に全国で展開しています。

例えば、A4の封筒に入った書類(40g)を送付しようとした場合、郵政公社(定形外郵便)は120円、ヤマト運輸は80円と、圧倒的にヤマト運輸の方が安価です。

再度書きますが、これは「手っ取り早く儲かる大口顧客向け」の料金ではなく、個人が送付物を1通送ろうと思ったときにも適用される価格体系です。

「メール便」は、セブンイレブン全店(32都道府県に約10900店)、ファミリーマート全店(43都府県に約6500店)でも取り扱っていますし、近くにそれら取扱店がなかったとしても、全国展開しているヤマト運輸の営業所でもお願いできますし、なにより電話一本で集荷に来てくれる(サイトより)ワケですから、コンビニがない地域でも問題はないでしょう。

その一方で、郵政公社の「冊子小包」。大量に出してくれる大口顧客には「500g 55円」という値段(ハガキとほぼ同等!)を提示しているのに、個人が出した場合、なんと290円もかかります。個人の軽視はハナハダシイ限りです。

*「冊子小包」は、おもに大口顧客向けに対して、2003年7月1日2004年2月1日に料金値下げが行われています。残念ながら、個人向けはほぼ放置ですが。

(1) 民間配送会社の中にも、個人でも簡便に利用できる「郵政公社より安価な」サービスの「全国展開」を行っている事業者が既に存在している
(2) 郵政公社も、個人向けの価格は下げずに大口顧客へ大幅な割引制度を用意している

この2点を踏まえれば「民間事業者の弱者切り捨て論」は、事実から目をそらしていると言わざるを得ないのではないでしょうか。「庶民にしわ寄せが来る」という表現は受け入れやすい雰囲気をもったスローガンですが、現実とは異なる単なるイメージに過ぎないと思われます。

なお余談ですが、当然ですがヤマト運輸は「郵政公社と異なって」各種税金を納めています。国の収入(歳入)に貢献していることもお忘れなく。

Posted by karao at 2005年08月20日 12:32
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Comments

TBありがとうございます。詳細な分析に感服しました。こういう分析の積み重ねが一番重要ですよね。

最後の部分ですが、民間と競合する組織が税金を納めていないという段階でアウトだという理屈があまり出てこないのは不思議ですよね。クリアなロジックだと思うのですが。

Posted by: 馬車馬 at 2005年08月24日 14:08
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