KARAO's Web Special
2002年上半期版「レコード会社の儲け方」
〜今儲かっているレコード会社とその儲け方、グラフで教えます!〜
2002/08/31掲載

「ミリオンヒット」を記録したシングルがゼロという結果に終わった2002年上半期。アルバムでは、宇多田ヒカルや浜崎あゆみが飛び抜けたセールスを記録したことで賑わいを見せましたが“CD不況”は今なお続いています。

その一方、既存の枠を超えた形で出てきたインディーズシーンのうねりは過去にないほどの勢いで、メジャーレコード会社とインディーズレコード会社という区別の意味が薄れ始めていることがはっきりしてきました。

このような中、大がかりなプロモーションを展開してムーヴメントを生み出すメジャーレコード会社の役割=存在意義ともいえる「ヒット作創作能力」が、シビアに問われているのではないでしょうか。

今回は、上半期のシングル・アルバム売上総額をもとにはじき出した「2002年上半期Active maker」の結果から、今年5月に発表した「レコード会社の儲け方」の2002年上半期版をお届けいたします。今儲かっているレコード会社とその儲け方をグラフでまとめてみました。レコード会社ごとにさまざまな特徴がでていることが、読みとれることでしょう。

*このページに記載しているデータは、シングルおよびアルバムの売上をもとにしています。レコード会社は、このほかDVDやVHSなどの商品、ライヴチケットなど様々な形で売上をあげておりますが、そのような情報は一切考慮されておりません。その点には十分ご留意ください。
◆ 業界に激震? 2002年上半期、名実ともにエイベックスがソニーを超えた!
今年1月から6月までのデータから集計した「2002年上半期Active maker」の結果をまとめたものが上のグラフです。音楽業界のシェアトップとなったのは、エイベックス・トラックスの15.2%。前回同様2位には東芝EMIがしっかりと位置しており、「2強が市場全体の4分の1」を占めている状態には変化がなかった、正確に言えばさらに加速した(25.4%→28.2%)ことが分かります。上位寡占という傾向も深まり、音楽市場の約半分をトイズファクトリーまでの上位5レーベルが占める結果となりました。

さらに今回のデータで注目すべきなのは、今まで法人(グループ)別では首位を維持していたソニーミュージックグループが2位に後退したこと。

従来から、レーベル単位ではエイベックス・トラックスの首位が続いていましたが、法人(グループ別)単位ではソニーミュージックグループがトップを走っていました。前回調査で見ると、エイベックスグループの16.7%に対しソニーミュージックグループは19.4%といった具合です。

しかし、今回遂にソニーミュージックグループが業界トップから滑り落ちるという結果が出てきました。

まず、ソニーミュージックグループ全体のシェアをはじき出してみましょう。ソニーレコード(7位)を筆頭に、DefSTAR RECORDS(10位)、ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル(12位)、キューンレコード(14位)、エピックレコード(16位)、アンティノスレコード(24位)、ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ(26位)、ソニーミュージックハウス(35位)など、レーベル数自体は多いもののその合計は14.7%

対するエイベックスグループ全体のシェアは、1位のエイベックス・トラックスのほか、カッティング・エッジ(17位)、rhythm zone(23位)、SONIC GROOVE(41位)、Rhythmedia Tribe(44位)などを合計して17.8%に達しています。
 
◆ コア・アーティスト不在で首位転落のソニーミュージック、業績も赤字に
ソニーミュージックグループが不調なのは核となるアーティストの不在につきるのではないでしょうか。他のレーベルでは、エイベックス=浜崎あゆみ、東芝EMI=宇多田ヒカル、ビクター=桑田佳祐・LOVE PSYCHEDELICOなど、核となるアーティストがきちんと存在しています。

確かに、ソニーミュージックグループにも核となるアーティストがいないわけではありません。ただ、戦略ミスとも思える事例が目につきます。いいか悪いかは別ですが、BoAやDo As Infinityなど、エイベックス・トラックスが「ヒットする気配が出たらタイアップ付きでシングルのリリース攻勢をかけ、露出しまくる」法則でアーティストの知名度向上を徹底させる中で、シングル発売に7ヶ月(新曲という意味では10ヶ月)もの空白期間を作ってしまったCHEMISTRYが代表的なところでしょうか。

この結果は会社の業績にもダイレクトに響いているようです。ソニーが7月25日に発表した2002年第一四半期連結業績によれば、ヒットアーティストの不在がもとで、ソニー・ミュージックエンタテインメントは今年4月〜6月の売上が前年同期比で29%の大幅減を記録。さらに赤字に転落するなど、事態は非常に深刻と言えるでしょう。
 

このように、ソニーミュージックの失速による業界勢力図の大変動が起きた2002年上半期。続いては、“勝ち組”である上位メーカーがどのように儲けているのか、前回同様、市場シェアが5%以上のメーカーに絞って細かく見ていきたいと思います。

*以下のグラフでは、メーカー内シェアが5%以上のアーティストのみ表記しています。ただし、5%以上のアーティストが5組以下の場合、上位5組を示しています。また、コンピレーション盤は「Various Artists」として単一集計しています。
【1位】エイベックス・トラックス
247.7億円を売り上げ市場シェアが15%を突破、浜崎あゆみ依存率は34.1%に
レーベルごとに集計して決定したメーカーランキングトップは、日本を代表するレコード会社、エイベックス・トラックスに輝きました。CD売上は247.7億円で、前回調査の242.3億円から約2.3%の増加に。コピーコントロールCDを業界で初めて導入したこともあり、CD不況が叫ばれる中で首位をキープ。成長を遂げたことは驚異的と言えるでしょう。

エイベックス=浜崎あゆみというイメージが強いですが、彼女の売上が同社の売上に占める割合(メーカー内シェア)は34.1%で、前回調査(38.6%)より約4ポイント低下。

今期は、ベスト盤を発売したDo As Infinity(メーカー内シェア11.1%)と、1stアルバム「LISTEN TO MY HEART」が約75万枚のセールスを記録したBoA(同10.9%)の好調さが目立ちました。また、浜崎あゆみ&KEIKO、持田香織、hitomiなど同社所属のアーティストが“アメリカ同時多発テロ”へのチャリティのため集結した「VARIOUS ARTISTS FEATURING songnation」が15万枚を突破するなど、コンピレーション盤もメーカー内シェアが6.1%となっています。
【2位】東芝EMI
宇多田ヒカル効果で売上高が200億円突破、そのうち半分はヒッキーが稼ぐ
宇多田ヒカルがアルバムを出せば、東芝EMIが必ず儲かる…。この方程式がぴったりとあてはまった2002年上半期。東芝EMIが、売上を前回調査の175.2億円から211.6億円へと20%も増加させ、2位にランクイン。

アルバム「DEEP RIVER」が276万枚を記録、シングル「SAKURAドロップス」「光」がともに上半期のシングルランキングでBest5入りを果たした宇多田ヒカルが、同社の売上の約半分(48.8%)を占めており、まさに宇多田ヒカル様々といったところ。

ただし、ここで注意してもらいたいのは、東芝EMIが毎回宇多田ヒカルに依存している訳ではない点ですね。前回調査では宇多田ヒカルの売上は同社全体の8.9%しかありませんでしたので、毎回毎回特定アーティストに依存しているレコード会社とは全く違います。ここは、強調しておきたいところです。

2ndアルバム「This Armor」が50万枚を突破した鬼束ちひろ(メーカー内シェア8.7%)、カバーアルバムで活動を再開させた椎名林檎(同6.7%)に加え、メジャーデビューを果たした氣志團(同2.1%)や企画モノであるストロベリー・フラワー(1.7%)などが数字をあげています。
【3位】BMGファンハウス
2枚のベストアルバムがもたらした奇跡? 前回調査と比較し売上が倍増!
ランキングで3位に躍り出たBMGファンハウス。売上が前回調査の78.9億円から146.8億円へと倍増し、市場シェアが9.0%に急伸しました。

これは、2枚のベストアルバムがもたらした「奇跡」と言えるでしょう。レコード会社の移籍(BMGファンハウスから、エイベックスへの移籍)にともなって発売されたMISIAのベストアルバムが174万枚、さらに小田和正のベスト盤も155万枚を記録、この2人だけで同社の売上の実に71.5%を占めています。一極集中もここまでくると驚きを通り越してしまいそうです。

来期以降は、ブレイクを果たしたorange pekoe(メーカー内シェア4.5%)やキンモクセイ(同2.2%)がさらなるヒットを遂げるかどうかにかかっていると言えそう。
【4位】ビクターエンタテインメント
LOVE PSYCHEDELICOとDragon Ashがバランスよくヒット、ベスト盤効果もアリ
ビクターエンタテインメントが、前回の5位から一歩浮上し4位をマーク。LOVE PSYCHEDELICOの2ndアルバム「LOVE PSYCHEDELICO ORCHESTRA」が70万枚を超えるヒットを記録したことが大きかったと思われます。

また、シングル「Life goes on」が80万枚、「FANTASISTA」が40万枚のセールスを記録したDragon Ashが、集計期間内でアルバム未リリースながらメーカー内シェアで14.6%に達し、メーカーを下支え。解散を発表した19、一時アーティスト活動を停止したKiroroがともにベスト盤をリリース、こちらもきちんと数字に表れています。

前回調査ではメーカー内シェア13.6%と大きく貢献した桑田佳祐はリリースがなかったため4.1%と落ち着いていますが、その代わりに(といっては何ですが)「東京タムレ」がヒットとなった原由子も上位に顔を出しています。

来期には、桑田佳祐のニューアルバムが控えています。また、Dragon Ashの新作もそろそろ予想されるだけに、大きく数字を伸ばしてきそうな予感。
【5位】トイズファクトリー
ミスチルに加えケツメイシ、BUMP OF CHICKENと男性バンドの好調さ目立つ
トイズファクトリーといえば、やはりMr.Children抜きには語れません。今期は元旦発売のシングル「君が好き」が50万枚、5月発売のアルバム「IT'S A WONDERFUL WORLD」が100万枚を記録、メーカー全体の「5分の2」を稼いだ計算になります。

その一方、育ち盛りの2バンド、ケツメイシとBUMP OF CHICKENがアルバム「ケツノポリス2」「jupiter」をリリース、合計で100万枚を記録したことも数字を大きく押し上げました。
【6位】ユニバーサルミュージック
コンピレーション盤と2アーティストの「カバーアルバム」で市場シェア6位をキープ
前回調査では、異例のヒットとなった小澤征爾&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団「NEW YEAR'S CONCERT 2002」のブームが大きかったユニバーサルミュージックですが、今回はコンピレーションアルバムが売上の筆頭となりました。3月に発売された「WOMAN 3」、4月に発売された「BEAUTY」でトータル40万枚を叩き出しています。

もう1つの軸となったのが「カバーアルバム」。松田聖子や山口百恵などをカバーした中森明菜「ZERO album−歌姫2」と、テレビ番組の企画から生まれた「『福山エンヂニヤリング』サウンドトラック The Golden Oldies」は売上が20万枚を超えています。
【番外編】ソニーミュージックグループ
既に活動中止したTommy february6が稼ぎ頭という事実が物語る、コアアーティスト不在の“惨状”
最後に、ソニーミュージックグループについて見ていきましょう。同グループの稼ぎ頭はブリグリ川瀬智子のソロプロジェクト、Tommy february6という結果に。70万枚近いセールスとなったアルバム「Tommy february6」によるものですが、既に活動を中止しているTommy february6に来期以降の売上を期待することはできないというのは痛いところ。

上半期シングルランキングで首位を射止めた元ちとせも、期間内の作品はシングルのみなためメーカー内シェアが3.9%と、話題の大きさとは裏腹に会社への貢献度合いはあまり高くありません。もちろん来期には、既に1stアルバムで20億円弱の売上が上乗せされますので、彼女の存在感が急上昇するのは間違いないところでしょうか。

さて、その気になる来期ですが、鬼束ちひろや矢井田瞳、w-inds.、松浦亜弥など「シングルヒットがあるアーティストの1stアルバムは売れる」という定説からすると、28日に発売となる中島美嘉の1stアルバムも数字を上げてきそう。業界首位に返り咲けるかどうか、期待を込めて注目していきたいと思います。
上記内容はすべて掲載時点でのものです。
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